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ある日、街でめずらしい男に会った。城野である。顔見知りではあるが親しいという間柄ではなかった。彼はTNCの「レッツ・ゴー・フォーク」などが行われていた明治生命ホールで働いていたと記憶している。必然的に彼は「レッツ・ゴー・フォーク」に出演した、いろんなバンドと顔見知りになっていた。彼にとって私はその中の一人であった。コンサート
「わぁ、門田さん。ちょうど良かった、会いたかったっちゃんね。今なんばしようと?どこにおる?話があるったい、今度会いに行くけん。」城野はそれだけを言うとそそくさと去っていった。「なんじゃ、あいつ?」私はしばらく城野に会ったことさえ忘れていた。彼が本当に私のところにやって来るまでは…
「門田さん、僕ね今、郵便貯金会館におるとよ。」名刺を見るとホール責任者となっていた。「おー、お前、出世したやん。頑張ったちゃね。」「いやぁ、そうでもないよ。責任者になって退屈でくさ…昔は、楽しかったぁ。」「お前、そりゃ贅沢ば言いようやね。ところで、俺に話して、なんね?」「あー、そうたい。それで来たったい。門田さん、うちでコンサートばせん?」「コンサート?なんの?」「そうねぇ、例えば昔のバンドを集めてやるとか…」「そりゃ、無理ばい。照和が終わって3年やろ?まともに出来るバンドはおらん。そりゃぁ、結婚式の二次会とかでみんなが集まれば適当にバンドは楽しみよるけど、ホールでやるとなるとなぁ…無理やね。」「無理かいなねぇ…」「無理やねぇ。」と返事をしながら1バンド30分のステージなら5〜6バンド集めれば不可能じゃないかも、という思いが頭をかすめた。妙安寺ファミリーバンド、ミルキー・パトロール、ジェフ、シャイアン族、緋紋章…などなど、メンバーが揃いそうなバンドを思い浮かべていた。「門田さん。ホールのことなら僕がどげんでも便宜を図るけん、考えとって。」「便宜を図るって、ただにするとか?」「いやぁ、そりゃ出来んよ。」「ばってん、いまさら昔のバンドでコンサートしても客が入ると思うか?赤字になるのが目に見えとうやね。」「そうかいなねぇ、僕は意外とお客さんは来ると思うけどねぇ…」
城野の置き土産のコンサート話を一人になって数週間考えた。考えるということは前向き、やる方向で考えていた。「よし、コンサートをやろう!」私は決断した。城野に電話をかけた。「城野、コンサートやるぞ。」「えっ、本当?えーと、ちょっと待って。8月のねぇ…うーんと、28日。この日を押さえとくけんね。」「げー、お前。そりゃ、気が早か。」
昔からのいつもの流れ、相談事はまず谷村与志雄に持ちかける。城野を伴って「スタッフ」へ。「コンサート?」「ああ、1バンド30分ステージなら、ちょっと練習すれば、まだみんなやれると思う。うちとヨシオちゃんとこ、ジェフ、緋紋章、シャイアン族。5バンドで2時間半から3時間。」「うーん、出来んことはなかろうばってん…なんでそんなことを思いついたん?」「こいつ。城野が俺んとこへ来て、コンサートばしようて言うけん。乗ってしもうた。」「谷村さん、やろう。コンサート。」「うーん、そうやね。やろうか。カドやん、どうせならみんな出そう?」「みんなって?」「みんなたい。」「へっ?」「1バンド1曲でよか。カドやんが連絡つくバンド全部、みんなだそう。」谷村の案に一瞬頭がパニック状態になった。何バンドになるんだろう?20〜30バンドが一夜のコンサートに出たら、どげんなるとかいな?
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