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1970年物語/第九話 by/門田一郎 「部室」 新学期が始まって私は恥ずかしながら大学5年生となった。留年しても授業料は変わらない。5年目なんだから少しくらい割り引いてくれても良さそうなのに…なんて事を思いながら、2ヶ月間のバイト代を手に学費を払い込みに行った。 なんと!学費はすでに払い込まれていた。しかも一年分も…。 「アンポンタン」の息子をもった親父が振り込んでくれていたのだ。口は悪いが心優しい親父に感謝する…気持ちはあるのだが、なかなか口に出して「ありがとう」と言えない不肖の息子。親子だし気持ちは通じるはずだと勝手に思って、放っておいた。 これで一年間学費の心配はなくなった。あとは合宿費だけでよい。バイト代もあることだし当分はバイトに行かなくても済むのは有難い。 履修登録に行く。知らん顔が多い。当たり前である、我が学友はみんな卒業したのだった。…あらためて自分の立場を省みる。とりあえず10科目ほど登録をする。どうせ今年もまともに授業に出ることもないだろうし、去年は何もしなくて3科目も取れたんだから「数打ちゃ当たる」…などと人間、楽をすると甘い考えになってくるものだと思いつつ部室に向かう。 構内を道一つ隔てた所に、工事現場に建てられるバラック建ての建物がある。 同好会とか愛好会、研究会などのクラブの部室になっている。正規のクラブは学校から補助金がでたり、構内のちゃんとした建物に部室を持っている。我々愛好会などの類のクラブにはそう言った特典はないが、その分気楽にクラブ活動が楽しめるようになっている。当然、上下関係はあるが厳しくない。 その建物にはその類のクラブが20近く入居している。我々のクラブは「アナウンスメント研究会」と相部屋である。先住者は通称「アナ研」のほうである。そのためスペースも2対3の割合で先住者のほうが広い。しかも「アナ研」の部員に女の子が多いし、可愛い子がいるから文句は言わない。それに比べてうちのクラブは…。「今年の目標、我がフォークソング愛好会に今年こそ可愛い女の子をクラブに勧誘しよう。」と男達は気勢を上げる。…何考えてんだか。 部室に行くと卒業したはずの久保の声がする。この男、大学を無事卒業し就職も決まっていた。合宿所のせいでもあるのだが学生気分が抜けない久保は夜遅くまでみんなと騒ぎ、朝は低血圧のため布団から抜け出せず、辞めたのか?クビになったのか?一週間で会社に行かなくなった。「俺も留年すれば良かったやね…」などと愚痴を言い、仕送りもなくバイトもせずに早々と合宿所の居候と成り果てた男がギターを持ってはしゃいでいる。 「久保さん、卒業して就職したんじゃなかったんですか?」などと後輩達やアナ研の部員からも声をかけられていた。 「良かと、良かと。心配せんとって。」…誰もアンタのことなんか心配しとらんワイ。 |
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