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1970年物語/第三十二話 by/門田一郎 「赤木商店」 合宿所のすぐそばに「赤木商店」はあった。今で言うならコンビニエンス・ストアである。 米・肉・野菜からお菓子、週刊誌、洗剤などなど所狭しと食品、雑貨が乱雑に置かれ、売れるものなら何でも売っていた…ような気がする。こういったお店に清潔さ、新鮮さなどというものを求めてはいけない。心のふれあいが大切なのである。 我々にとってインスタント・ラーメンが主食であったこの時代。ラーメンをおいしく食べる工夫をする。「おばちゃん、もやしある?」「どのくらい、いるの?」「ラーメン一杯分でいいんだけど…」と一掴みのもやしを売ってもらったり、「ねぎを2〜3本」とか「白菜を2〜3枚」とか10円玉一個持って買いに行くのである。 合宿所では米は共同で購入し朝晩2回炊く。おかずは各自で作るのが原則である。冷蔵庫の中に食材を入れる時は必ず名前を書く…食べられてしまえば何にもならないけれど。その食材をスーパーマーケットに買いに行く暇も、まとまったお金も無い我々はすべて赤木商店で賄っていた。 いつも世話になっているお礼にコンサートに招待しようとチケットを持っていった。「赤木商店」のおじさんがコンサートに来てくれた。酒好きのおじさんは帰りに酒を飲む為に自転車に乗ってやってきた。「いやぁ、見なおしたなぁ。上手なんだぁ。若い女の子が多くて恥ずかしかったけど、良かったよ。」と喜んでくれた。翌日、おじさんが合宿所にやってきた。「これを食って栄養をつけな。」と牛肉を差し入れしてくれた。久し振りに見る牛肉であった。 「よし、今夜はスキヤキにしよう」と話しはまとまった。もとシェフだった仲西がスキヤキを作った。仲西のバカ!砂糖と塩を間違って入れやがった。 「私、小松が丘子供会の世話をしている者ですけれど…」と合宿所に場違いの上品そうな若いオバさんが訪ねて来た。「赤木商店のご主人に聞いたんですけれど、お宅様は中央の方ではとても有名なバンドをなさっているということでお願いに上がりました。」…中央の方って?たしかに南の果ての小松ヶ丘からみれば天神は福岡の中央ではあるけれど… 「子供会の催し物として皆さんの演奏を子供達に聞かせて頂けないでしょうか?」こういう人からの依頼は困るのである。子供達相手だからではない。聞いてくれる人がいれば何処でだって演奏する。だけどPA機材がないと歌は聞こえない、楽器のバランスが悪いとなるとただの雑音になってしまう。楽器があれば演奏できるという簡単な問題ではないのだ。それを説明しても仕方ない。当然そんな予算もないんだろうから。 日頃からこの合宿所はこの辺りでは騒音の源になっているはずである。部室代わりに人の出入りは激しい、練習では楽器の音、夜中じゅう麻雀の音で近所に迷惑をかけている。罪滅ぼしと点数稼ぎに子供会の催し物に出ることにした。 「基本的には自分たちのバンドの曲をメインにするけれど子供に受ける曲を何曲かやろう。」「月光仮面の歌は?」「お前ね、今時、月光仮面なんて知ってる子供がいるか?」「うーん…」と選曲に頭を抱える。 場所は公民館の前の公園広場。合宿所に置いてあるギター・アンプやベース・アンプにマイクを差し込んでボーカル・アンプ代わりにする。これでなんとか歌は聞こえるはずである。小学生の子供達が4〜50人整然と並ばされている。 「皆さん、今日は妙安寺ファミリーバンドのお兄さんたちに歌と演奏をしてもらいます。ご挨拶しましょう。」という挨拶から始まって子供達はその場に腰を下ろす。この日のために練習したのは「泳げ!たいやき君」「ひょっこりひょうたん島」など数曲。 「あのーここで休憩を入れて欲しいんですけれど…」と打ち合わせも無く突然要求する、件の若いオバさん。「ここで休憩時間です。皆さん、立って下さい。はい、バンドのお兄さん達も一緒に軽い体操をしましょうね。」へっ?わし等も?「アッタマカッタ、ヒザシー、ヒザシー、ヒザシー」と歌いながら頭・肩・膝・足に手をやって子供達と一緒に軽い体操をしたのだった。 片づけが終わった頃「今日はありがとうございました。子供達も大喜びでした。」といって若いオバさんが弁当、お菓子の差し入れを持って来てくれた。…誰が見てもわし等は食に飢えてるように見えるらしい。 私の実家のお寺「妙安寺」は日蓮宗である。福岡の東区にある東公園に日蓮上人の銅像がある。銅像を管理している宗務所で夏休みに子供達を集めてサマー・スクールを行っている。「お前ら、アトラクションで演奏しろ。」とお寺を継いだ兄から命令された。 「いいタイミングだね。最近、子供相手に演奏したからバッチリだよ。」子供の歌を練習したのが無駄にならなかった。特に「泳げ!たいやき君」は受けた。子門真人に似ていると子供達から言われた。…嬉しくともなんともなかった。 |
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